代表挨拶 元京都女子大学非常勤講師   辻 榮子
      
 「関西英米文学研究会」は、年1度の機関紙『英米文学手帖』の発行と同人全員によるその感想文集を作成し、総会で合評会を行い、また、2020年より、研究発表も希望者により実施して会員の活動交流の活発化を図り、良い刺激となっています。このところ、オンラインで総会が3年間続いています。
 1971年の「関西英米文学研究会」発足以来、発起人故野谷士・田中健一両氏を初め、機関紙『英米文学手帖』の執筆者の一人である故中西信太郎氏が『シェイクスピアのソング』を本邦初訳した当時から、同人の英米文学研究者たちと活発な活動をともに行なってまいりました。前代表の川野美智子先生もそのお一人でありました。大戦後も78年となり、世相の荒波にもまれながらも、文学に表徴される人生の生き方と真実を探り、追求され続けた諸先輩の志と研究成果は60号を迎えた『手帖』にその息吹の集約が見受けられます。特に10年にわたる川野前代表の献身的な当会へのご支持に深謝しながら、私には突然の代表就任ではありますが、引き続き本会の会員の皆様と共に努力することを、浅学ながら末席よりご報告ご挨拶させていただきます。
 国連決議のSDGsの目標は、世界平和の希求のための「持続可能な発展」を願っての事だと思われます。英米文学作品の枠を広げた古代から現代までの比較文化論や、英語教育論も盛んに論文化され、そして、デジタル化の急速な普及による社会の改革は、ますます独自化と疎外化を産み出す一面と同時に、新鮮なグラフィックデザイン等で、私たちを魅了して後戻りするとは考えられません。コロナ渦中の閉塞感を打ち破り、変わりゆく文明の本質を正視できる力を獲得し、大戦後の激動の時期を切り開かれた諸先輩の叡智に学びつつ、地上の自然界の営みを大切に、次世代へとつなぐ小さな灯りになれますようにと願って止みません。本会の多様な論文や各種随想の中に、溢れるような人生寸見があり、会員ならびに読者諸氏に抱いていただいた連帯感を大切に、非力な私ですが誠意をもって務めさせていただく所存です。今後ともにどうぞよろしくお願いいたします。

プロフィール
1945年満州国ハルピン市生まれ。大阪学芸大学教育学士。京都女子大学修士課程修了文学修士。

ニュージーランド、マセイ大学にて、アメリカ短編小説・エリザベス朝演劇・
英作文等の講義受講。京都女子大学大学院(英米文学)・大谷大学大学院(西洋文学の宗教的背景)・叡山学院(古代インド哲学入門)等を受講。
比叡山高等学校〈常〉・大阪樟蔭短期大学(非)・京都女子大学(非)・立命館大学(非)・佛教大学(非)を歴任。

論文
「J.D.Salinngerにおけるイニシエーションの意義」
    ―Holden Caufieldの苦悩と憧憬をめぐって―  『WISTERIA』3号
「象徴的工夫と寓意の考察」             『WISTERIA』4号
―Daumier-Smith’s Blue Period“―         松浦直巳先生退任記念号
「岩屋の住人、バナナフィシュと山椒魚」         『手帖』37号
サリンジャー「桟橋のヨットにて」            『手帖』53号
サリンジャー「エズメのためにー愛と汚辱の物語」     『手帖』54号
『ライ麦畑で捕まえて』から『ナイン・ストーリーズ』へ  『手帖』57号

随想
「もう一匹のバナナフィシュ」              『手帖』36号
「パーキンソン様症状に付き合って」           『手帖』46号
「サリンジャーのA Perfect Day に思う」          『手帖』48号
「百人一首・一番の作者表象に連なって」         『手帖』56号
「光秀公と「佐目の人々」」               『手帖』59号
「グローバル・パートナーシップを求める若い人々」    『手帖』60号